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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和43年(う)138号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を魚津簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、魚津区検察庁検察官宮本多久男作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、

一、原判決は、本件公訴事実中、被告人が昭和四三年一月一三日午後六時頃から同日午後八時頃までの間、自己の経営する魚津市村木二、八〇五番地料理店寿二階奥六畳客間を貸し、富山一郎外七名の客に花骨牌を使用し俗に「六百拳」或は「六百拳の後先」と称する賭銭博奕をさせ、もって、右お客らに善良の風俗を害する行為をさせた、との風俗営業等取締法違反の公訴事実について、その事実の存在を認めながら、被告人の同日同所における賭博行為につき確定判決があり、右確定判決を経た事実と右公訴事実とは刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあり、確定判決の既判力が及ぶとして免訴の言渡をしているが、これは事実を誤認し、法令の解釈適用を誤ったものであり、

二、検察官の罰金一〇、〇〇〇円の求刑に対し、被告人を罰金六、〇〇〇円に処した原審の量刑は著しく軽きに失し不当である。

と言うのである。

よって、先づ、論旨第一の事実誤認、法令の解釈適用の誤りの主張について検討するに、一件記録によれば、本件各公訴事実中、原判決が免訴の言渡をした所論指摘の公訴事実は、

「被告人が、昭和四三年一月一三日午後六時頃から同日午後八時頃までの間、自己の経営する魚津市村木二、八〇五番地料理店寿二階奥六畳客間を貸し、富山一郎外七名の客に花骨牌を使用(中略)する賭銭博奕をさせ、もって、右お客らに善良の風俗を害する行為をさせた」

との風俗営業等取締法違反に係るものであり、被告人が昭和四三年一月三〇日魚津簡易裁判所で宣告を受け、同年二月一六日確定した原判決摘示の確定判決の罪となるべき事実は、

「被告人は、昭和四三年一月一三日午後五時過頃から同日午後六時頃までの間、前示料理店寿二階奥六畳客間において、桐岡明、坂元照子と共に花骨牌を使用して(中略)賭銭博奕をした」

との賭博罪に係るものであることが認められる。

ところで、風俗営業等取締法三条、富山県風俗営業等取締法施行条例二二条四号は、営業者は「営業所において、卑わいな行為その他善良の風俗を害する行為をしないこと及び客にこれらの行為をさせないこと」と規定しているが、右条例二二条四号後段の、営業者が客室等営業所において、客に賭博等善良な風俗を害する行為をさせることと、右違反営業者が自ら賭者となって賭博をなす右条例二二条四号前段の所為は勿論、刑法一八五条の賭博罪とは各その構成要件を異にする別個の犯罪行為であって、別個独立の併合罪として処断すべきものと解するのが相当であり、右風俗営業等取締法違反の所為と、前示確定判決を経た賭博の所為とは、刑法五四条一項前段のいわゆる観念的競合或は同法一項後段のいわゆる牽連犯の関係に立つものとは解し難い。

しかるに、前示確定判決を経た被告人の賭博行為が前示条例二二条四号前段に該当すると同時に、桐岡明、坂元照子らに営業所において賭博をさせると言う同条例二二条四号後段に違反することになり、右違反の所為は、その直後に富山一郎外七名に営業所において賭博をさせたと言う前示公訴事実と一連の一個の所為であるから、結局、前示公訴事実と確定判決を経た賭博の所為とはいわゆる観念的競合の関係に立つとして前示公訴事実について免訴の言渡をした原判決は、結局、事実を誤認し、既判力についての解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の論旨に触れるまでもなく、原判決は全部破棄を免れない。

なお、職権で調査するに、本件記録によれば、昭和四三年二月二七日付起訴状記載の公訴事実(免訴の言渡部分)についての検察官申請の各書面が、原審第一回公判期日においてすべて取調べられたことが認められるが、右第一回公判調書の別紙証拠関係カード中、右各書面の項の同意、不同意の別欄には何らの記載がなく、また、ほかに右各書面を取調べるについての被告人の同意があったことを認めるに足る資料もない。右各書証中、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書及び公務員がその職務上証明し得る事実について作成したと認められる身上調査書、前科調書を除くその余の書証は、すべて刑事訴訟法三二六条の被告人の同意を得るか、同法三二一条一項二号ないし三号の手続を履践し、各供述の特信性の存在が認められない限り証拠能力を有しないものであるに拘らず、原審が右手続を履践した形跡は全く認められない。そうだとすると、原審には、適法な証拠調べを経ない証拠能力のない書面を取調べた法令の違反があり、右違反は、被告人の原審公判廷における供述、同人の前示各供述調書以外に右公訴事実についての証拠のない本件においては判決に影響を及ぼすことが明らかであり、この点について更に審理をし直す必要がある。

よって刑事訴訟法三九七条一項、三七九条、三八二条により原判決を全部破棄し、当裁判所において更に判決するを相当でないと認めるので、同法四〇〇条本文に則り本件を魚津簡易裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沢田哲夫 裁判官 河合長志 石田恒良)

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